こんにちは、FRACTA Research & Implementation(RI)局の松岡です。タイトルが長いですね。「インナーブランディング」と書いてしまおうかと思ったのですが、最近FRACTAでは「インターナルブランディング」という表現に統一しておりますので、インターナルブランディングとしました。
インターナルブランディングというのは、企業内(ブランド内)のメンバーに対し、その企業やブランドの価値や方針を伝え浸透させていく活動です。具体的には、自社や自社ブランドに対する理解促進のための社内広報や研修、イベントなどが挙げられます。
一方エクスターナルブランディングというのは、顧客などの企業外の人々に対し、その企業やブランドの価値や魅力を伝え、繋がりを深める活動です。一般的に「ブランディング」と言えば、現在ではこの「エクスターナルブランディング」を思い浮かべる場合が多いと思われます。
インターナルブランディングは「内向き」なブランディング活動、エクスターナルブランディングは「外向き」なブランディング活動、と捉えていただければよいと思います。
FRACTAでは、インターナルブランディングについて以前から議論を重ねてきており、最近では宣伝会議さんとインターナルブランディングの研究会を行うなど、インターナルブランディング関連の活動がより活性化しています。というのは、FRACTAはもともとはエクスターナル側のサポートを主に行っていたのですが、近年インターナル側のご相談が増えているということが背景にあります。
インターナルブランディングとエクスターナルブランディングの関係性
さて、インターナルブランディングとエクスターナルブランディングの関係性に対しては、下記の図のように考えてきました。
これは、インターナルブランディングとエクスターナルブランディングは連続したものであって、自社のコア要素がまずインターナルな部分を経由し、そののちエクスターナルな活動を通して企業外の人々に影響を及ぼす、ということを表した図です。言い換えれば、ブランディングにおけるインターナルな要素(自社への誇りや帰属意識、愛着など)は、エクスターナル的活動(営業やマーケティング、広報など)に不可欠だ、と示したものです。
「インターナル」「エクスターナル」という言葉が表すように、対象とする領域が真逆のような印象を与える両者ですが、本当は表裏一体であり、人間の身体の内側と外側のように、あるいは魂と身体のように、つながったものだという認識をもってきました。
ただ上記の図は、インターナルブランディングとエクスターナルブランディングという2つの関係を端的に表してみたものであって、実際には、インターナルとエクスターナルの関係はもうちょっと複雑だと思います。今までの経験を元にデフォルメした2つの例を以下に挙げてみます。
例1:理念に共感して入社した人
A社という会社があったとします。Bさんは学生時代からA社を知っており、一般的にはあまり有名ではないA社の事業やスタンスに対し魅力を感じており入社を決めました。
営業職についたBさんは、もとからA社のことをよく理解していたこともあって入社直後からぐんぐん成績を伸ばしました。Bさんの顧客は、Bさんが懇切丁寧にA社の商品の魅力や特徴を語ってくれたことにより、A社の商品についてよく理解をした上で買ってくれます。結果、リピート率の向上や、口コミを通じての新規購入が増えていきました。
この例で「インターナルブランディング」と「エクスターナルブランディング」それぞれに関わる要素を、図に表すと下記のようになります。
両者は連携しあっていますね。別の例を挙げてみます。
例2:迷わなくなった人
C社という会社があったとします。DさんはC社のデザイナーで、C社の発行する情報誌や広告などのデザインを担っていますが、いつもどのような方向性でデザインすれば良いのか手探りしながらデザインしていました。またDさん以外にもデザイナーがおり、みんなで手探り状態でした。その結果、毎回雰囲気が違うものが出来、C社と言えばこんな感じのイメージ、という印象が外部から得られずに困っていました。(営業メンバーからは「ウチと言えばこんな感じ!というのが欲しい」と言われたりしていました)
そんな折、C社がパーパスを策定することになり、その流れで「インターナルブランディング」が行われるようになりました。パーパス策定がどのように行われたかを広報のメンバーが社内報で知らせるようになったり、CEOや役員との座談会が行われるようになりました。
Dさんは自社の目指す方向性を理解・納得したことで、今後どのようなデザインをしていけば良いのかが考えられるようになりました。他のデザイナーとも話し合ってデザインルールを策定、それにそって全てをデザインするようになりました。するとそのうち社外から「C社はこんなイメージ」と認識されるようになり、営業メンバーからも「イメージが持たれることで商談がやりやすくなった」「デザインルールがあることで資料作りもしやすくなった」と喜ばれるようになりました。
さらには「C社のデザインはかっこいい」と評判になり、C社のみんなが自社に対してより誇りを持てるようになりました。その結果、採用なども含め全方位でパフォーマンスが上がっていきました。
両者の連携は不可欠で、むしろ絡まっているとさえ言えるかもしれませんね。
ここまでは、「インターナルブランディング」と「エクスターナルブランディング」は互いに関わり合っている、というお話でした。エクスターナルブランディングを成功させるには、インターナルブランディングにも丁寧に向き合う必要がありそうですね。
境界線はどこにあるのか
ここからは、タイトルにもある「境界線はどこにあるのか?」のお話をしていこうと思います。インターナルとエクスターナル、それぞれに対するブランディング活動は、何を境目に、インターナル向けとエクスターナル向けが切り替わるのでしょうか。言い換えれば、インターナルブランディングによって培われた自社への誇りや帰属意識、愛着などは、何によってエクスターナルブランディングへと変換されるのでしょうか。
結論から言ってしまうと、境界線は「人の心」にあると思います。インターナルブランディング的な取り組みによってやる気や誇りを感じたりすることで、それがエネルギーとなりパフォーマンスに変換されていく。あるいは自社や自社ブランドへの理解や共感が、外部への明確な価値提示となり影響を及ぼしていく。いずれも、「人の心」の認識やモチベーションといったことが核にあり、インターナルブランディングはまさに人の心を変換機として、エクスターナルブランディングのアウトプットへと切り替わっていくのです。
先ほどの例1で言えば、BさんはA社への「共感と理解(※1)」があったからこそ、あまり有名ではないA社の商品を顧客がよく理解して買ってくれるようになりました。さらに、口コミで新規顧客を呼び込むことにつながっています。例2でいえば、Dさんの自社の方針の「理解」をきっかけとして、C社の望ましいイメージ形成(※2)に大きな影響を与えました。いずれも、「人の心」のはたらきが介在しているからこその変化だと言えるでしょう。
※1:上記の「理解」という言葉は、「頭でわかる」という状態だけでなく、「そもそも知りたいと思う」「腹落ちする」といった感情的なニュアンスも含む言葉として使用しています。
※2:「望ましいイメージの形成」はブランディングにおいては必要不可欠の要素です。「あそこはこういうブランド(企業)なんだな」といった(望ましい)イメージを持たれることによって、それを媒介として顧客からの継続的な選択・購買、愛着、信頼を獲得していくことがブランディングの基本的な道筋です。
人の心に向き合う時代
これから、ますます多様化の時代を迎えます。そして人口が減ってゆくことが不可避な状況になりつつあります。企業にとってはますます生き残りが困難な時代になってゆくのだろうと思います。
その流れの中にあって、企業やブランドは成長するため、また存続するため、何をしてゆかなければならないかというと、(たくさんあるとは思いますがその中の重要項目の一つとして)「徹底的に人に向き合う」ということではないかと思います。
例えばインターナルブランディングであれば、パーパス等の方針を作った後の「浸透」、さらには「社内メンバーの日々の仕事に方針を活かすにはどうしたら良いか」まで最初から考えてプロジェクトを進めていく。社内メンバーが自分の日々の仕事に方針を活かし、各々の仕事が方針と紐づいたものになるには、社内メンバーが方針を「自分ごと化」する必要があります。「自分ごと化」を推進するには個々人の納得、共感といった感情面での配慮が必要になりますので、必然的に「人の心」に向き合うことになります。
もし「人の心」に向き合おうとせずにインターナルブランディングをすれば、先のパーパスの場合、それは浸透せず実を伴わない空虚な言葉となってしまいます。せっかくパーパスを策定したとしても、社内メンバーの誇りやモチベーション、愛着、共感などといった感情や、理解へはつながらず、結果的に外向けのブランディング(エクスターナルブランディング)も内的なパワーが弱いまま行うことになるので、限定的なパフォーマンスに留まることになってしまうでしょう。困難な状況だからこそ、「人の心」に真摯に向き合う態度が、これからは必要になってくると思うのです。
今回はインターナルブランディングとエクスターナルブランディングという文脈でのお話でしたが、日本ではここ数年で「人的資本」の考えを元にした動きが生まれており、その文脈からも「人」を軸としたビジネスのあり方を考えようといった潮流を感じることができるのではないでしょうか。「人の心」はその中でも、向き合うのが最も難しい部類に入ると思いますが、だからこそこの「人の心」と真正面から向き合い続けられるか否かが問われることになるのだろうな、と考えています。
本記事が何かヒントになりましたらこれほど嬉しいことはありません。最後までお読みくださり、ありがとうございました。