色を通じてブランドを考察してみたー第3章〈触覚〉

色を通じてブランドを考察してみたー第3章〈触覚〉

こんにちは!FRACTA Research & Implementation(RI)局の島田です。

色を通じてブランドを考察してみたー序章として、ブランドに印象付けられた色と「五感」の関係について考察をスタートした本シリーズ。今回は3章目として、「触覚」にフォーカスしてみます。

1章目、2章目で触れてきた「視覚」「聴覚」は光や音などの外界の情報を検出するのに対し、「触覚」は皮膚の凹みや温度変化を自分の状態として検出することで認知しています。 

 

色から手触りを想像してみよう

さらさら、ざらざら、温かい、冷たい、固い、柔らかい…
これらは実際にものに触れて感じる感覚の例です。

本来はものに触れて、「触覚」として情報を取り込むのですが、今回は「視覚」から取り込んだ色をメインに、画面上の情報と見る人の記憶を掛け合わせて、まるで実際に触れているかのように「触覚」として感じてみたいと思います。

色を視てそこから「触覚」を捉えようとする上でどうしても切り離せない大事な情報があります。それは、素材形状です。
今回の考察では、「触覚」を想像するために、画面で見た視覚情報のうち、色と、形状、そして素材を想像するステップを踏むことになります。その素材や形状に対する認識や、触ったことがあるかという実体験の有無、によって「触覚」としての感じとり方は人それぞれになるのではないかと思います。

「聴覚」と同じく、実体験に基づいた考察も交えながら、FRACTAが伴走したブランド事例を見て、分析していきましょう。

 

心地よい温もりを、その手に

ノグチニット

大阪で90年あまり続くニットブランドです。創業時は手編み製品からスタートし、現在は横編みの機械で製品を製造しています。

実績紹介ページ▶︎ニットカルチャーを発信するオンラインコミュニケーション


https://noguchiknit.shop/

色、形状、素材の3つの側面から順番に考察してみましょう。

まずは、色です。白色の中でも柔らかさを感じるオフホワイトの台の上には、やや彩度を低くした山吹色、オフホワイト、そして僅かにグレーを帯びたエクリュベージュ、という色合いのセーターやニット帽が重なります。
ニット帽に触れる人の服は、台と同じまたはやや明るめのオフホワイト、上部に少しだけ映る背景は、台よりも色が濃く、薄いグレーです。全体的に柔らかで明るい色合いであることが分かります。

画面の大部分を占める白という色から何を想像しますか?私は、乾燥機から取り出したばかりのふかふかのタオルを思い浮かべました。
画面に映る他の色、山吹色からは春の暖かな日差しの下でたわわに咲いたミモザの花、エクリュベージュからはもこもこの毛を纏った羊を想像し、いずれも柔らかな手触りと、温かいという温度を感じとりました。

次に形状です。ニットは四角く折り畳まれていますが、角は丸みを帯びています。そしてニット帽も丸みを帯びていて全体的に柔らかな印象を与えているようだと考察しました。

最後に素材です。台の上のセーター2着は拡大しないとその素材や質感を確認できませんが、非常に細かな編み目であると捉えることができます。そして一番上に重ねられたニット帽には、ケーブル編みが施されており、色がもつ柔らかな印象をより引き立たせていると考察します。

ここまで色、形状、素材の考察を組み合わせた結果、この画面からは、「ふんわり」「柔らか」な手触りと、「温か」という温度が「触覚」として感じ取れると考察しました。

トップページに「そばにある、ぬくもり」と表された通り、丁寧に作られたニット素材の衣類が「ふんわり」「柔らか」な質感で体を包んでくれる、そんな感覚を画面から感じ取ることができます。

サイト内のコラム「そばにある、ひとてま」では、素材やその色合いもより細かに見ることができ、おすすめです。

 

木とともに、世界を巡ろう

ENJOY THE WOOD|合同会社リベルタジャパン

ウクライナ発のブランドで、隣国のベラルーシで選定した白樺の木から、手作りの木製製品を企画・開発・製造しています。

実績紹介ページ▶︎旅に対する想いを細部に宿すトータルコミュニケーション設計


https://enjoythewood.jp/

白樺の木を材料としており、触りごごちは正に「木材」です。木材そのものが持つ色と、木材の最大の特徴である木目に注目して、このブランドのWebサイトから感じ取れる「触覚」を考察してみます。

木材は切り出す箇所や個体差により色や木目が異なります。色は絵の具や色鉛筆で見る茶色よりも大分白味を帯びており、全体的に明るめの印象です。ただし1色ではなく、2色、3色と混色であることが分かります。そして木目は縦、横の縞模様、マーブル模様、斑模様と様々です。
これらの色や木目からは、ほっとする暖かさを感じられるように思います。なぜそう感じるのだろうかと調べたところ、それは木材が一般的にYR(黄赤)系統の色彩であることが理由のようです。(
こちらのサイトでは、その理由をわかりやすく解説してくださっています)

ところで、木材に触れたことはありますか?
恐らく大凡の方が触ったことがある、と答えるのではと思います。そうなると、実はすでに「触覚」の記憶があることになるので、画面を見た時に「触覚」を容易に感じ取れてしまうのではないかと思います。木材はどの程度研磨されているかにより、さらさら、つるつる、ざらざらというように、触り心地に差が現れます。
今回この画面からは、あたかも実際に木目そのものを触ったような「触覚」を感じ取れるように思います。例えば、横の木目を縦になぞると少し凹凸を感じられたり、木目と同じ方向になぞればさらっとした質感を味わえる、といった具合です。

実は木材も金属も表面温度はほぼ同じで、触れた時の温度差は熱伝導率の差から生じているのだそうです。(こちらをご参照ください)
それでも、画面に映された木材の色は金属の色(アルミニウムやステンレス素材の色)や、つるっとした質感よりも温かみを感じますね。色や質感が温度をはじめとした「触覚」を想像させる際に影響しているのです。

白樺の木を切り出した世界地図は、色も木目もそれぞれです。各国の木のパーツに触れながら、もし訪れたことがない国であれば景色を想像したり、訪れたことがあるならば思い出を紐解いてみるのも楽しそうですね。

 

どんな時も、一緒に寄りそう

MANUALgraph|株式会社フジライト

静岡県裾野市で主に業務用の家具をつくり続けてきたソファメーカーが立ち上げたD2Cブランドです。お客様の『好きな自分らしさ』を大切にしたソファの製造、販売を行っています。

実績紹介ページ▶︎地域に愛されるソファブランドに育てる。一体となり伴走し続けたリブランディングプロジェクト


https://manualgraph.com/

こちらも、色と素材から、その触り心地を「触覚」として考察してみます。ソファはパーツに分けて細かめに考察していきますので、ぜひ一緒に画面を眺めながら想像してください。

まずはそれぞれのパーツに張られた生地の色から見ていきます。
座面部分は金茶色よりやや深みのある色合いです。座面から目線を上げていくと、ベージュやブルーグリーンから派生した色味の膝掛けやクッションカバー、上着が目に入ります。そして背面は、ブルーグリーンをメインに、白色や座面にも使われているような茶金色などを配色したロモンドタータン(イギリスのファブリックメーカーOsbone&Little社のチェック柄)です。
座面部から背面部の配色を見るとコンプレックス配色となりますが、膝掛けや上着、クッションカバーに背面部との共通色を配して、座面部と背面部の繋がりを生み出す効果があると考察します。
※コンプレックス配色についてはこちらをご参照ください。

床やソファの横に置かれた木目のサイドテーブルは、ソファよりもやや濃い茶色、壁面は彩度を落とした薄く黄色味を帯びたオフホワイトです。どちらもソファの色彩と対立することなく、自然と馴染んでいるように見えますね。

次に素材を見ていきます。座面部にはPVCレザー(合成皮革)が張られています。画面からは控えめな艶があることからややマットな質感と、少し冷んやりとした触り心地を想像しました。
この時私の頭の中では、視覚的に捉えた「艶がある」状態から氷が想起され、氷は冷たい、という連想が行われていたと分析します。また皺なく生地が張られた様子は、少し硬さがあるように感じられました。

続いて背面部との間に配された膝掛け、クッションですが、共通性があるため一緒に見ていきます。これらは座面部のような艶やかさがなく光を柔らかく反射している様子から、やや起毛感を感じ取ることができます。
特に右側のブルーグリーンのクッションは、素材と置き方による生地の凹凸から色に明暗が生まれており、起毛感はあれど毛足が短めであろうことが想像できます。起毛感は温かみを連想させ、極度な角がない形状からは柔らかさも感じ取れそうです。

床、サイドテーブルはソファの座面よりもさらに控えめな艶があるように見えます。そのため、さらっとした質感で、温度はやや冷たいように感じ取れます。壁面が窓からの光を柔らかく反射している様子からは、ややマットな質感を想像しました。

なお、私は座面部に張られたPVCレザー(合成皮革)、背面部に張られているものと類似したタータン生地、ともに実際に触れたことがあります。
PCVレザーは触れた当初はやや冷たいですがすぐに体温と馴染み、さらっとした手触りです。またタータン生地は、「洗いざらしの綿100%素材のTシャツよりもやや起毛感があり、少しちくちくする」という印象があります。実際に触れたことがある素材であると、その記憶が先行してしまうかもしれません。

色と素材を掛け合わせた結果、画面上からは「人肌に馴染む柔らかさ」と「ちょうど良い温度」を感じ取れると考察しました。座面部のやや冷んやりした温度、硬さ、そして中間部、背面部の柔らかさ、起毛感から感じる温かみの組み合わせがそのような触覚を画面上から与えてくれます。床やサイドテーブル、壁面もソファと馴染むことから、画面上にメインに映し出されるソファの温度を保ってくれているようです。

わたしたちについてには、このような言葉が掲載されています。

一息ついてくつろぐ自分、料理を囲んでわいわい仲間と過ごす自分、真剣な話をパートナーとしている自分。MANUALgraphは、そんなお客様の『好きな自分らしさ』の積み重ねに寄り添う存在でありたいと思っています。

ソファは、触れて、座って、日々の生活を共にする存在です。
日常のあらゆるシーンで、お客様に寄りそうソファを造り上げ、お客様の元に届け、寄り添える存在でありたいと願うブランドの姿を、画面上から感じ取れる温度をはじめとした手触りから受け取れるようだと思いました。

 

触れて感じる、色の世界

1冊の絵本をご紹介したいと思います。

『くろは おうさま』[メネナ・コティン文、ロサ・ファリア絵、うのかずみ訳(サウザンブックス:2019年)]です。主人公である全盲のトマスが触れたり、匂ったりしながら感じた色の世界を描いています。

この絵本は真っ黒で、シルバーで印字された文字と点字、そして立体的に印刷された艶のある真っ黒な美しい挿絵で構成されています。
印刷された挿絵の凹凸を指でなぞりながら、主人公のトマスが感じた色を一緒に想像していくと、不思議と真っ黒な絵本にも豊かな彩りが与えられたような感覚になります。ぜひ実際に触れて味わっていただきたいです。


今回は、実際には触ることができない画面上の色彩情報から温度や質感を捉えられる「触覚」を考察してきました。

画面上に映し出されたものが持つ色から連想されることやものが何かにより、私と異なる感覚を抱いた方もいるかもしれません。その感覚は実体験のどの記憶と繋がっているのだろう?と考えると、「触覚」1つを取っても、なかなか奥深く感じられますね。

 

いかがでしたでしょうか?

次回は、色が与える「味覚」について考察していきます。お楽しみに。