カルチャーデザイン、してますか? 【#002:導入のステップ】

カルチャーデザイン、してますか? 【#002:導入のステップ】

企業におけるカルチャーデザインの重要性とその手法についての連載の第2回目です。

▶第1回目はこちらです。
#001:定義と事例 

カルチャーデザインの主な要素

企業文化をデザインし実践する時、成功のために忘れてはならない重要な要素がいくつかあります。これらの要素は、特定の企業や業界によって異なるかもしれませんが、あらゆるカルチャーデザイン設計に共通して必要不可欠なものもいくつかあります。

価値観の共有

価値観の共有は、カルチャーデザインの基本的な柱の1つです。価値観とは、企業のアイデンティティ、目標、目的を定義する指導原理です。企業文化の基礎となるもので、組織のあらゆるレベルにおいて、目的意識と方向性を共有するのに役立ちます。従業員がこれらの価値観を理解し、腹落ちすることで、会社のミッションやビジョンに共感し、コミットする可能性が高まります。

ここで大事なことは「価値観の押し付け」ではなく「価値観の共有」です。個々人が持つ価値観とは別に、組織の一員として行動する際に意識する、その時の「価値観」のインストールを行っていきます。人間という「OS」に、企業、ブランドという「仮想環境」をインストールするイメージでしょうか。

[参考]
仮想環境とは? 仮想マシンの種類やメリット・デメリット、運用時のポイントを解説(splashtop 2022.4.6)


明確なミッションの確立

カルチャーデザインのもう1つの重要な要素は、会社の共有する価値観と一致する明確なミッションの確立です。ミッション・ステートメントは、簡潔で従業員と顧客の両方が容易に理解できるものでなければなりません。また、日々の業務や長期的な目標に対して方向性を示し、実行可能なものでなければなりません。実は、これが結構曲者です。 

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を定める際に、従業員と顧客の視点と理解を無視して策定すると、理解できない「謎」なミッション・ステートメントが生成されてしまうことが往々にしてあります。ミッション・ステートメントはカッコいいからとか、複雑なものは避けてできる限り関わるステークホルダー全員がわかりやすいものにする必要があります。

効果的なコミュニケーション

効果的なコミュニケーションも、カルチャーデザインの成功に欠かせない要素です。オープンで透明性の高いコミュニケーション・チャネルは、社員と経営陣の信頼と協力を促進します。効率的なコミュニケーション・チャネルは、全員が同じ環境にいることを保証し、フィードバックが奨励され、より良いアイデアとより包括的な職場へと導きます。

コロナ禍を経た現在ではリモートワークが普及しましたが、実はこのリモートワーク、一番の問題は「全員が同じ環境にいることが保証されていない感覚」が起きてしまうことにあります。すごく原始的な話なんですが、やっぱり人間は直接同じ空間にいないと、どこか阻害されたような感覚に陥ってしまうんですね。そしてお互いに「理解していない、理解されていない」という不快感が生まれてしまいます。

これを解消するために必要なことは「コミュニケーションの総量を増やしまくる」ことにあります。Slackでオープンなチャンネルを開設することもそうですし、常にzoomやmeetをつなぎっぱなしにした会議室を作っておくなどの方法もあります。この辺りの「自分たちらしい効果的なコミュニケーション」の確立も、カルチャーデザインの成功にはとても重要な要素です。

共感と安らぎ、承認と報酬

共感と安らぎは、前向きで健全な企業文化を創り出すために不可欠であり、信頼感、尊敬の念、そして協力的な職場環境を育みます。従業員が理解され、居心地が良いと感じれば、革新的なアイデアを共有しやすくなり、仲間に囲まれていると感じ、最高のパフォーマンスを発揮する意欲が高まります。

また承認と報酬は、望ましい行動や価値観を強化するための最も強力なツールの1つです。従業員が評価され、感謝されていると感じれば、従業員のやる気と生産性は向上します。表彰は、シンプルなお礼状から、手の込んだ表彰式やその他の業績インセンティブまで、さまざまな形で行うことができ、支援的で成長する文化を作る上で役立ちます。

このような重要な要素を企業文化のデザインに取り入れることで、健康で生産性の高い、魅力的な労働力を生み出すことができます。しかし、カルチャーデザインは万能ではないということを念頭に置いておくことが重要です。各企業には固有の課題と目的があり、それに合わせたアプローチが必要です。組織のビジョンに沿った適切なカルチャーデザインを形成するためには、特定のニーズと要件を評価し、計画することが不可欠です。

さらに、組織のあらゆるレベルのチームメンバーを巻き込み、彼らの考えや意見を共有する機会を与えることも同様に重要です。カルチャーデザインのプロセスで従業員と協力することは、革新的なアイデアを生み出すだけでなく、企業文化に対するオーナーシップと投資意識を醸成することにもつながります。

最終的に、カルチャーデザインは一過性のものではありません。従業員と経営陣のコミットメントとサポートが必要な、継続的なプロセスなのです。共通の価値観、明確なミッション、効果的なコミュニケーション、共感と安らぎ、学習と成長の機会、評価と報酬を優先することで、組織は優秀な人材を惹きつけ、維持し、長期的な成長と繁栄を促進する文化を育むことができるのです。

 

カルチャーデザインを自社に導入するためのステップ

カルチャーデザイン。それは色や質感ではなく、価値観や経験を選定し、設計、構築することと言えます。私たちの身だしなみや所作と同じように、企業文化がうまくデザインされているかどうかで、他者(顧客)からの印象が大きく変わります。そして、第一印象はとても大切です。ここでは、そんなカルチャーデザインを社内に導入する方法について説明していきたいと思います。

現在のカルチャーを評価する

企業文化に何らかの変更を加える前に、まず現状の立ち位置を把握する必要があります。つまり、既存の価値観や方針、従業員の声を掘り下げて、何がうまくいっていて、何がうまくいっていないのかを明確に把握することです。

従業員はミッション・ステートメントに共感していても、それを達成するためのリソースがないと感じているのかもしれません。また、部門間のコミュニケーションが不足しており、生産性に影響を及ぼしているかもしれません。このような問題を深く掘り下げることで、望ましい文化を創造するためにどのような変化が必要なのかをより深く理解することができます。

ここで大切なことは、今までを「完全に否定」してはいけない、ということです。どうしても、古い考え、価値観などについて、否定的な意見を出したくなりますが、そのように感じるのは「時代が違う」からです。今やろうとしている最高の企業文化も20年後には「古臭い」ものになっているかもしれません。現代は「圧倒的超高速で変化し続ける」時代です。今まで培われてきたものも冷静に分析、理解し「変えるべきもの、変えてはいけないもの、受け継ぐべきもの、捨てるべきもの」をしっかりと把握、定義することがとても大切なのです。

望ましい企業文化の決定

現在の企業文化を理解、評価したら、次は今後の企業文化をどのようにしたいか考える番です。ここで、理想的な従業員体験のビジョンを描くことになります。協力的なチームで社会に注目される存在になりたいですか? それとも、個人の成長と発達を重視したいのでしょうか。社会に変革をもたらしたいのか、それともステークホルダーを幸せにしたいのか、どのようなカルチャーを目指すにしても、会社の価値観やミッション・ステートメントに沿ったものであるべきです。

アクションプランの策定

さて、いよいよアクションプランの作成です。ここでは、望ましい文化を創造するために必要な変化を、実際にどのように実行するかを決定します。それぞれの変化について、具体的で測定可能な目標を設定し、それを達成するために必要なリソースを特定する必要があります。

例えば、AIなど新しいテクノロジーの導入やトレーニングプログラムに投資したり、コラボレーションを促進するためにチームを再編成したりすることが考えられます。変化を起こすことは困難であることを念頭に置き、現実的で継続可能な計画を立てることが重要です。

従業員に変化を伝える

アクションプランの策定が完了したら、いよいよ従業員に内容を伝える番です。ここでは、何が変わるのか、なぜ変わるのか、そしてそれが従業員の仕事にどう影響するのかを説明します。従業員には、ただ指示されているのではなく、変革の一翼を担っていると感じてもらうことが必要不可欠です。

直面している課題について正直に話し、変化が困難であることを認めましょう。従業員からのフィードバックや質問を奨励し、彼らの意見に基づいてドラスティックにアクションプランを変えることも厭わない姿勢が必要です。

ここを端折ると、ほぼ確実に企業文化の形成は失敗します。従業員への徹底した説明、ディスカッションはカルチャーデザインのクリティカルパスです。ここをしくじれば、あらゆるプロセスは遅延し、最終的には失敗をもたらす可能性があることを理解し、進める必要があります。

実行する

変更を伝え、従業員からフィードバックを受け、再構成が完了したら、いよいよ変更を実行に移す時が来ました。ここが勝負どころであり、アクションプランが実行に移されるところです。

実施プロセスを監督するプロジェクトマネージャーやチームを設けることが重要です。プロジェクトマネージャーは、全員が同じ見解を持ち、変更が計画通りに実行されていることを確認することに専念する必要があります。

そして、物事が計画通りに進まない可能性があることを心に留めておいてください。最終目標に集中し、適応力を維持することが重要です。

成功を測定する

最後に、カルチャーデザインの成功を測定する時です。せっかく変更を加えたのですから、それが会社にどのような影響を与えたかを確認したいものです。つまり、従業員エンゲージメント、離職率、収益性などの指標を追跡することです。

また、従業員からフィードバックを集め、彼らがこの変化についてどう感じているかを確認する必要があります。これは、アンケート、フォーカスグループ、1対1の会話などを通じて行うことができます。

素晴らしい企業文化の創造は、継続的なプロセスであることを忘れないでください。企業文化を継続的に改善し、構築するためには、常に評価し、調整し、従業員とコミュニケーションをとる必要があります。そうすることで、生産性が高いだけでなく、魅力的で充実した職場を作ることができるのです。

次回は、カルチャーデザインを導入する際に避けたいポイントと、導入後の成功度の測定について説明します。

カルチャーデザイン、してますか? 【#003:注意するポイントと成功度の測り方】