こんにちは。3月よりスタートした、社会やテクノロジー、ビジネスの話題を行き来しながら、未来や文化についてのたらればを発信する音声メディア「FRACTA Future Forecast|未来と文化の交差点」。本記事では、第2回の放送「伝統と革新のダブルスタンダード」のトークの様子をお届けします。
歴史的なプロダクトに革新は必要?
つっちー:第2回目よろしくお願いします。今回は、チャーリーとプロダクトデザインについて色々話したいなと思います。
チャーリー:我々は好きですからね、プロダクト。
つっちー:そもそも今回なぜこの議題が上がったかというと、いまウクライナとロシアの問題があるなかで、ウクライナの歴史的に価値のあった飛行機が壊されてしまったことがありますね。
チャーリー:世界最大の貨物機の話ですよね。
つっちー:飛行機をプロダクトとして捉えた時に、もう一回技術的には作ることができるかもしれないけど、そこにあった文脈や歴史や想いみたいなものは作れないなぁというところの話から「歴史的なプロダクトは時代や環境に合わせてどう進化させていくのか」「革新が必要なのか」というお話をしたいなと思っています。
そこでチャーリーから出てきたのが、ブラウンのプロダクトデザインの話でしたね。
チャーリー:そうです。実際、歴史の長い色々なブランドがある中で、時代に合わせて新しいプロダクトを出していくにあたって、昔のプロダクトを残す・残さないのかというところは、ブランドとしても問われるところはあるのではないかなと。ウクライナの飛行機の話で言ったら、東日本大震災のときに日本を助けるために飛んできてくれたような思い出深いエピソードのように、歴史があるものは文脈とセットで愛される、プロダクトを越えた存在になっているところもあります。なので、未来へ進むためにブランド側が切り捨てて新しいプロダクトでビジネスしていくのは、結構判断が難しかったり、問われることが出てくるなと感じるんですよね。
というところで言うと、ブラウンは私が単純にただ好きなブランドではあるんですけど、昔のプロダクトがめちゃめちゃにかっこいいんです。懐古主義的なところもすごくあると思うのですが。
今は、黒とかシルバーという男性的で強そうなプロダクトが今の主流のデザインです。一方で昔は、バウハウスのプロダクトデザインの源流とも言われるようなデザインで、ウッドと金属的なものを組み合わせたコンビネーションデザインがすごく美しいものでした。そういったものを残し続ける・続けないというのは、ブランドにとっては難しい判断だと感じます。
つっちー:僕もブラウンのモバイルシェーバーM90を使ったことがあります。デザインと機能性が両立している感じがするのですが、ブラウンファンのチャーリ的には、デザイン的ならしさと機能性の両立についてどう思いますか?
チャーリー:難しいですね。多分ブラウンは、現代的なデザインにしてプロダクトを刷新することと、技術革新の部分を並行して取り組んでいるからだと思うんですよね。それこそシェーバーだったら髭の深剃りに対応するためや、剃り味、剃り具合のレベルを上げていくために、プロダクト自体の見た目にもある種影響する部分が改善されてくるのかなと。その過程でデザインも変わっていく必要性があったんだろうなと思います。昔のままのプロダクトの形を保っていては、機能品質的に上げられなかった部分もあるのだろうなと。
だから昔のデザインのままでいいという人たちは、利用者側がある程度機能を妥協しなければいけないところも出てくるんだろうなと思うんですよね。
でもデザインが良いということでフォローしている私みたいな人間からすると、そこは合わせてほしいなという気持ちもあるんですよ。
最近だと、レコードやCDプレイヤーで聞くようなアナログ音源の売上が久しぶりに上昇したという統計があって。全部デジタルに移すのではなく、手触りがあったり、少しの不便さがあっても、温もりのあるプロダクトに触れていきたい傾向は実は今も一定数存在しているのかもしれないですね。
先ほどつっちーが話していた、昔から続いているものを愛している人たちを見切ってしまっていいのかというのは結構難しい問題です。
クラシックモデルとニューモデルの両立
つっちー:それで言うと、GAPがロゴをリブランディングで刷新したとき、不評で1週間ぐらいでまた元のロゴに戻してしまった話がありましたね。
チャーリー:あれは大々的なニュースになりましたね。だいぶ世の中から反発する意見があって取り下げたと思うのですが、今はGAPを利用している人やそうではない人も含めてSNSなどを通じて意見が見えやすくなったという理由もあるかもしれないですね。SNSがない時代にリブランディングしていたら、ロゴが変わっていたなんてことがあるかもしれないですが。もし変えたままだったらどうなったのかは気になります。
つっちー:そうなんですよね。
チャーリー:GAPの例にしろ、ある程度ファンが存在しているビジネスは、企業の経営方針や経営陣の意向、ブランドビジネスのストラテジックみたいな部分だけで判断する時代でもないのかなと思います。GAPに限らず、ファンに向けて「ブランドがそろそろ変わります」と話をして、その上でどう変わっていくのが良いかを(ファンの意見を取り入れるかどうかは別にしても、)聞くことは必要なのかなと。変化したあとでも、「いろんな意見を見てくれた上で決断してくれたんだ」となんとなく納得して見てくれるんじゃないかなと思います。
つっちー:確かに。本当にGAPを愛していた人からは、いきなりそんな変わっちゃうんだという驚きはあったかもしれないですね。
チャーリー:やっぱりブランドパーソナリティがガラッと変わったことに対する反発はあったのかなと思います。
歴史的なブランド資産をどうするのかという話は、新しい資産を作っていこうとか新しいブランドのIPを作っていこうという話にも近い。クラシックモデルと、新しいモデルを両立させていく見せ方もあるかもしれないですね。
つっちー:確かに。
チャーリー:ブラウンの話に戻りますが、一番私がリスペクトしているモデルはSK5、「白雪姫の棺」といわれているオーディオです。ディーター・ラムスさんが作ったプロダクトで、本当に美しい。ブラウンの新しいオーディオが出たらそれを良いと言う人もいると思うのですが、スペックが低くてもSK5だったら一定層買う人がいるんじゃないのかなと。クラシックブラウンとニューブラウン、どちらのモデルも扱ってほしいですね。
つっちー:クラシックとニューを共存させながら、場合によってはニューの割合を増やしていく。でもニューも何年か経ったら、クラシックになっていくわけじゃないですか。そういうバランスを、ダブルスタンダードで行っていくことになりますね。
チャーリー:それは良いかもしれない。ダブルスタンダードのビジネスモデル自体が大きなABテストになっていて「ニューブラウンが難しかったから、クラシックブラウンがやっぱり正規のブランドだ」という統合をしても良いかもしれないですね。生活者目線のわがままかもしれないですが、これからの時代、プロダクトのABテスト、ダブルスタンダード・ビジネスがあってもいいんじゃないかと。
つっちー:生活者、ファンからしたらなんでも新しくすればいいと言うのも違うかもしれないですね。特に今は、機能が良ければいいという時代でもないのかもしれないです。
チャーリー:そうですね。ブラウンさんにはSK5を復活してほしいなと願いつつ、今回はここまで。
つっちー:はい、ありがとうございました。
-----
「未来と文化の交差点」では、毎月2回さまざまなトピックを発信してまいります。ぜひご注目くださいね◎