FRACTAのプロジェクトで出番の多い「ブランディングフォーマット」。(Lightning Polarisという名前で呼ばれることもあります)
▲FRACTA ブランディングフォーマット
FRACTAのクライアントの皆さまにご記入いただくことも多く、ご質問いただく機会も増えたので、遅ればせながら解説を書いていこうと思いたちました。
FRACTAで、主に社内向けにブランディング関連のサポートやツール開発、研究などを行っている2名の筆者がお届け!全4回くらいを予定しております。
Vol.1では「思想」エリアを解説しているので、このnoteよりご覧になられた方はぜひVol.1からお読みいただけると実践しやすいかと思います。
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こんにちは!花輪&松岡です。この記事は、
・松岡
どうしてもお堅い説明になってしまうキャラが、わかりやすい説明をしようと試みるとこうなる。ブランディングフォーマット作者。
・花輪
難しいことが苦手キャラが、大好きな”食”をベースに価値(WHAT)を説明してみるとこうなる。
という感じで、2名それぞれの視点から、デフォルトの解説文には入りきらなかった解説を改めて考え、対談形式で書いていく記事です。
ブランディングフォーマットは無料配布しているので、よろしければお使いください。
■ 今回の解説エリアについて
前回に引き続き、価値エリアです。
価値②では、独自性・差別化要素・愛着要素についてお話していきます!
早速、独自性からみていきましょう!
■ 独自性
花輪:本日は独自性からですね!ブランディングフォーマットを見ると、独自性だけ背景色がピンクになっていますね・・?
松岡:そうなんですよ〜。ピンクの項目は「難所」です。RPGでいうところのボスキャラ的な存在です。
はっ...!今思ったんですが、ボスキャラだったら最後に出てきてほしいですかねぇ...順番変えようかしら...
花輪:難所!ボスキャラ・・!
攻略できると経験値や報酬がたくさん貰えそうですね!!!
松岡:ボスキャラ倒すと、だいたいレベルが1つ2つ、上がりますもんね。確かに、独自性をクリアできた時には一段階強くなってると言えるかもしれません笑。
さて独自性は、マーケティング用語のUSP(ユニーク・セリング・プロポジション)と同じものと思っていただいてよいでしょう。そのブランドが持つ、市場における唯一で且つ、顧客にとって価値があるポイントです。
...さらさらっと言いましたけれど、「唯一で且つ価値がある」ってすっごいことですよね。絶対的優位性というか、それがあればいいじゃん、とも思っちゃいます。実際は、その価値と他との差が顧客に伝わらないとならないとか、その独自性(価値)を維持できる状態でならないと、とか一筋縄ではいかないのですが。
花輪:確かに。製造過程で他社に真似できない方法をとっていても、製品の見た目や使用感からはそのことが伝わりにくいことが多いかもしれません..!またリリース時は独走していたけれど、他社の参入によりコモディティ化してしまうことも考えられますよね。
「独自性」の具体的な例をあげると、キッコーマンの「やわらか密封ボトル」のように特許をとっているとか、ケンタッキーのスパイスレシピのように、社員にも口外されていない配合(ケンタッキーにしか作れない味)などがありますよね!
なんだかパッと浮かぶ独自性って、機能的価値に寄っているように思ったのですが・・・。情緒的価値に寄った独自性ってあるのでしょうか..?
松岡:感覚的には少なそうですが、あると思います!その点で、ケンタッキーの例、ひょっとしたらすごい良い例かもしれません。
ケンタッキーのスパイスって、顧客の「食べたい!」とか「美味しい!」を形成し満足させるという点は機能的ですが、お店の前を通りかかってあの香りを嗅いだ時、食べたいなぁと思うと同時に、子供の頃クリスマスに家族で食べたとか、誰々とよく食べたとか、懐かしさがこみ上げてきたりする。懐かしさを感じるかどうかは人それぞれですが、もし懐かしさや、何らかの感情をおぼえる人が顧客の場合、あの香り、もしくはスパイスは、感情を生み出すという点で情緒的価値を有するポイントですよね。さらに、ケンタッキーフライドチキンの歴史や、日本における認知度合い・受容度合いが形成した唯一無二の存在感を合わせて捉えると、あの香りやスパイスは、ケンタッキーフライドチキンにしか生み出せない情緒的独自性と言えると思います。
※参考:ケンタッキー・フライドチキンの歴史
花輪:なるほど・・!ケンタッキーの独自性は、「"臭覚"と"思い出"を結びつける情緒的独自性」ということですね。
ここまでのお話をまとめると、
独自性の項目は特許のように公的機関により権利を証明できる技術力があれば明示。そうでなくてもケンタッキーのスパイスのように、人の頭の中で唯一無二の価値を感じられるポイントとしての確立できる(できた)(今は実現できてなくてもいずれそうなると信じられる)ものがあれば、それを記入することも可能そうですね...!
■ 差別化要素
花輪:さて、次は差別化要素ですね。この項目は「差別化」ではなく「差別化”要素”」というところがポイントということですね...!
松岡:ハイ。結構無理やり感があるんですけど(苦笑)、造語的に勝手に作っちゃったといいますか...差別化要素という語は、正式な(?)マーケティング用語としては出てこないかもしれません。
「差別化要素」という項目をブランディングフォーマットに載せたのは、「独自性」とも違う、もうちょっと楽な(?)ニュアンスの語をブランディングフォーマットに載せたかったからです。独自性は端的にいうと「(市場/顧客にとっての)オンリーワンなポイント」ですが、前述したようにこれって実際見つけるのがものすごく難しい。顧客にも認知してもらえるような「ならではのポイント」「絶対的優位なポイント」を見つけ、それを源泉に戦略立てていくのが理想的ですけれども、それが成し遂げられるブランドはほんの一握りだと正直思います。ですから、独自性とまではいかなくても、「ここが他と違うから、これを価値として、戦略に役立てようよ」とブランドの方々が思える項目が必要だと考えました。
ということでまず、「差別化」という語に注目しました。「差別化」に近い語では、例えばマイケル・ポーターさんの「差別化戦略」のようにマーケティング用語として扱われる語もありますが、「差別化」と見るとなんとなく意味がわかるので、これがいいかな?と思って採用しました。一般的に「差別化」と聞いた時の印象としては、「違いを際立たせる」といった感じでしょうか。「差別」という言葉から、肯定/否定とか、優劣的なニュアンスを感じる方もいらっしゃるかもしれないのが懸念点でしたが、「区別」ってなるとなんか弱い...と思ってやめました。
(私の語彙力がもっと豊富だったらもっといい語を見つけられたかもしれません。)
次に「要素」という言葉をくっつけたのは、「単に他との違いを書くだけでなく、何が差別化できているポイントなのかを考える」ことを意識できるようにという意図がありました。
価値を生み出している部分をなるべく具体的に抽出することで、ブランドの価値を守ったり戦略に役立てるにあたってより有意義な項目になると思ったのです。
なので、「差別化要素」という語にしました。ぱっと見でなんとなく意味がわかり、「独自性」より気軽かつ価値の源泉についてより深く考察を促すことができ、さらにできるだけ短い語として選んだつもりです。
補足なのですが、実は「差別化」欄には、もう少しこうしたかった!という点があります。
ブランディングフォーマット上では、マイケル・ポーターさんの「差別化戦略」同様、「差別化」という言葉によって「(市場/顧客が認識できる)価値が付与される」というニュアンスを組み込みたいという意識がありました。というのは、ブランディングという活動上「差別化」を行うにあたっては、単に他との違いを出すだけでなく、その違いが何かしらの価値(例えば、他商品より使いやすいとか、他ブランドより洗練された印象を与えるなど)をもたらすほうがより望ましいからです。
なので、差別化の欄で「単なる他との違いを書けばいいのかな?」と思われたり、「とにかく他と違いを出せば良いんだ」と思われてしまうのは避けたかったのです。
しかし結局、「顧客が認識できる価値がある」的なニュアンスは、差別化要素というキーワードでは盛り込めませんでしたので、ガイド文として記載しました(苦笑)
■ 愛着要素
花輪:さて価値エリア、最後の項目は愛着要素ですね!
「愛着」を辞書(三省堂国語辞典)で引くと、
長いあいだなれしたしんで思い入れが強く(はなれ/手放し)たくないと思うこと。いとおしさ。
と出てきました。
このように愛着要素を記入する時は”ブランドと顧客が長い間ともに過ごした”シーンを浮かべるとよさそうですね。
松岡:そうですね!これまでのブランドと顧客との関わり合いを、出会い〜望ましい関係性を築けている時点までの長い時間軸で捉えて、その関係が「どのような要素によって成り立ってきているのか」を探っていくのがよいでしょう。例えば「顧客がある商品のデザインが気に入り購入し、その後もデザインが気に入って5年間ずっと使っている」のであれば「デザイン」が愛着要素といったところですね。(ただしデザインといってしまうと少し曖昧なので、色や形、素材、構造などがどういう感じなのか等、もう少し具体的にするとより有意義な要素抽出になるでしょう)
花輪:どの項目もそうですが、ブランディングフォーマットは"言葉の深堀り"が大切なのかもしれませんね。
最初から最高到達的な言葉を考えるのではなく、まずはパッと出てきた言葉をまず書き出してみて、その言葉の中から抽象的で他の人が読んだ時にイメージがわかないもの(そのブランドの色が見えてきにくい言葉)を具体化した言葉に置き換える。これを繰り返すことで多くのブランディングフォーマットは解像度が上がっていくハズです・・!
さて愛着要素の項目のお話に戻りますが、
上記で松岡さんがお話しされていたように、プロダクトを起点に愛着要素を考える枠組みも1つですが、その他にブランドのサービス全体に愛着要素があるか?という視座でも考えてみると、これも解像度が上がっていくかもしれません・・!
近年の動向として、ブランドが「モノ」から「コト」や「イミ」で語られるケースが増えていますし、D2Cの文脈でも「顧客と一緒に成長していく」と言われている傾向もあります。
プロダクトから伝えられる半不変的な愛着と、ブランドの人格・コミュニケーションから伝えられる愛着=「顧客との継続的な全ての接点」において、
どのように「なれしたしんで思い入れが強く(はなれ/手放し)たくないと思う」気持ちをつくっていくか?が愛着要素の項目としてポイントになるように思います。
Vol.3いかがでしたでしょうか?
次回は顧客エリアについて解説していきます!